静けさと深みの一杯を。

私たちの酒造りは、制御ではなく共生です。

自然のゆらぎを受け止め、その中に輪郭を描く。

人の役割は管理ではなく調律。

微生物の自然な営みを妨げない余白を保ちながら、

原料・温度・時間の調和をととのえていきます。

これを、私たちは「支配しない醸造」と呼んでいます。

酒は、蔵の可視化である

一本の酒は、どのようにして生まれるのか?

私たちは、酒を「蔵という場が、時間を経て可視化されたもの」と捉えています。

酒 = 可視化 { 蔵 × 時間 }

そして、蔵 = 場 × 菌 × 手

: 木造蔵の構造、温湿度のリズム、蔵付き微生物叢、花崗岩軟水、微気候

: 蔵付き酵母・乳酸菌・麹菌の遷移、優占/共存のバランス

: 洗米・浸漬、麹設計、酒母育成、撹拌・汲み出しといった造り手の介入

時間 : 発酵日数、熟成期間、瓶内の経時変化

その年、その蔵、その日だけの表情。

それこそが、生きた酒の証です。

三つの基軸


藤井酒造でしか生まれない「龍勢らしさ」をぶらさないために、

私たちは三つの基軸を日々の基準としています。

  • 自然発酵

    培養酵母を使わず、蔵に棲む天然の蔵付き酵母で可能な限り仕込みます。

    乳酸菌も添加せず、自然の力が立ち上がるのを待つ。

    これは、効率を犠牲にする選択です。

    でも、この"非効率"の中にこそ、複雑で奥行きのある味わいが生まれます。

    人為的な介入は最小限に留め、微生物の自然な均衡を尊重する。

    それが、私たちの基本姿勢です。

  • 生酛の骨格

    時間をかけて育てる生酛は、日本酒造りの古典的手法です。
    乳酸菌が自然に増殖するのを待ち、酵母がゆっくりと立ち上がる。

    この時間が、太すぎず細すぎない輪郭を形成します。

    香味がゆっくり広がる余白を残し、

    飲むほどに芯が見えてくる佇まい。

    それが、生酛ならではの魅力です。

  • 温度設計

    温度は、発酵という生命現象をコントロールする最も繊細な要素です。

    仕込み・発酵・貯蔵の各段階で温度を丁寧に調律し、香りと旨みの重なりを丹念に整えます。

    ただし、"完璧にコントロールする"わけではありません。

    自然のゆらぎを受け入れながら、その中で対話する感覚です。

変えないために、変える

伝統を守るとは、何も変えないことではありません。

藤井酒造が目指すのは、"古くて新しい"酒造り。

伝統に学びながら、一歩ずつ更新していく。
「変えないために、変えるべきところだけを変える」。

過去の知恵を礎に、現代の衛生管理と科学的知見を活かす。観察と手仕事の積み重ねの中に、答えを探し続ける。

蔵を守ることは、未来を醸すこと。
地域の水と空気、そして代々受け継がれた手の記憶が折り重なる「場」を、次の世代へ手渡していきます。

まだ全てが思い通りにはいかない

自然発酵による酒造りは、予測不可能なことの連続です。

気候も違えば、微生物の挙動も違う。
失敗することもあれば、思いがけない発見もある。

それでも、その一つひとつが次の一滴を形づくっています。

この不完全さの中にこそ、生きている酒の美しさがあります。

1907年の記憶を、未来へ

1907年に灯った火を、今の蔵で再び。

私たちは、龍勢という名のもとに、
かつての記憶を未来へと醸し続けています。

完璧ではない。

けれど、試し、学び、進み続ける限り、

"蔵の記憶"は絶えることがないと信じて。