記憶が息づく、静けさと深みの一杯を。

醸造理念

私たちは、酒を「場と時間を映し出す物体」と捉えています。

竹原の水と空気、木造蔵の微生物、生酛の営みが重なり合い、その年だけの輪郭が立ち上がる。均一にそろえることより、その由来が明確であること。誇張するより、飲むほどに芯が見えてくる佇まい。日々の食卓に寄り添う「静けさと深み」を設計するために、根拠と記録にもとづいて工程を整えています。

――この価値観を具体化する基準が、次の三つの要点です。

三つの要点

自然発酵:蔵由来の酵母・乳酸菌を活かす無添加設計。人為的な介入は最小限に留め、微生物の自然な均衡を尊重します。

生酛の骨格:古式の酒母造りによって、太すぎず細すぎない輪郭を形成。香味がゆっくり広がる余白を残します。

温度設計:仕込み・発酵・貯蔵の各段階で温度を丁寧に調律し、香りと旨みの重なりを丹念に整えます。

新しさを追うのではなく、ここでしか生まれない「藤井らしさ」をぶらさないために――この三つの要点を日々の基準として運用しています。

酒質の核:静けさと深み

香りは穏やか、口当たりはまろやか。中心には確かな芯があり、温度や時間の経過とともに奥行きがゆっくり姿を現します。

料理と出会うたびに余韻が静かに伸び、語らずとも伝わる強さが心に残る。派手さより、日常の余白に長く馴染むこと。

季節の移ろいを受け止めながら、やわらかな記憶を残す一杯――その「静けさと深み」を設計の核として、これからも丁寧に醸していきます。