土と蔵と、日々を醸す。

竹原の地酒

瀬戸内の穏やかな内海性気候、花崗岩を通った澄んだ軟水、木の温もりが息づく蔵。そして町に流れる静かな時間。

竹原という土地の風土は、発酵のリズムを自然に整え、私たちの酒に「静けさ」という固有の輪郭を与えてくれます。

その輪郭を曇らせないよう、あれこれ足すのではなく、曇りを取りのぞくように整えることを大切にしてきました。だからこそ、「足すより整える」という小さな決意を、今日も変わらず続けています。

生酛 × 蔵付きの力

私たちの酒造りの核にあるのは、生酛と「蔵に棲む微生物」です。人の役割は管理ではなく調律。無添加の設計のもとで原料・温度・時間の調和をととのえ、微生物の自然な営みを妨げない余白を保ちます。

2008年に生酛造りを復活し、2023年には全量を生酛仕込みへ。さかのぼれば明治40年、第一回全国清酒品評会で日本一の栄冠を得た当蔵の酒も、酵母無添加の生酛仕込みでした。過去の知恵を礎に、現代の衛生管理と記録で確かめながら、同じ方向へ着実に歩みを進めています。

これからの約束

蔵は単なる設備ではありません。地域の水と空気、そして代々受け継がれた手の記憶が折り重なる「場」です。一度失えば戻らない生態系を守り、観察と記録に基づいて必要な変化だけを重ねる。「変えないために、変えるべきところだけを変える」。この運用原則を次の世代へ手渡しながら、土地の記憶を宿した一杯を誠実にお届けしていきます。

この姿勢は、酒という「物体」の設計思想へとつながり、私たちの酒造り全体の判断基準となっています。